るの矜りを、口の先や、単なる身構へだけでなく、心の底の底から持ち得たかどうかといふことにかかつてゐると云へませう。
 それからまた、人間の品位は、さつきも云つたとほり、素朴な精神の純粋な姿のなかにもありますが、同時に、ほんたうに洗煉された作法、熟達した技術を通じても示されるのであります。
 茶道の形式がこれを証明し、また、巨匠名人と云はれる人々の風格を見てもわかると思ひますが、それよりも、われわれの身近なごく平凡な人物が、それでも自分のやゝ得意とする仕事に没頭してゐる時の、あの緊張した、しかも落ついた満足げなすがたのうちに、どうかすると、その人の平生には見られない、一種気品の閃きとも云ふべきものを発見することがあります。危なげのない、調和のとれた、澄みきつた、美しい姿なのであります。
 私はまた、都会の、技巧をこらし、見栄をはつた生活と、さういふ生活をしてゐる人々よりも、農村あたりの、代々の仕来りを守つた、がつちりと地についた、目立たない生活と、さういふ生活を営む人々の方に、寧ろより多く「品位」といふやうなものを感じることがあります。何れにしても「品位」は附焼刃でないことだけはたしかで
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