、あの健康な意志の力をおびたゞしく喪失してゐることであります。
 この点については、後の章で詳しく述べる機会があるでせう。
 さて、第三には、品位を保つといふことですが、これは「文化」の現れとして特に、国家の威信に関する極めて深刻な問題であります。
 そもそも人間の品位とは、これを気品と云つてもいゝのですが、一言にしては云ひ尽しがたい複雑微妙な要素から成つてゐるものです。強ひて云つてみれば、その人のどこかに高貴な匂ひがひそんでゐて、自然な態度のなかに犯し難い力と親しみとが感じられることなのであります。高貴なといふのは、必ずしも身分の高いことや、学識の豊かなことを指すのではありません。それはもつと素朴な精神の純粋な姿にもみられるものでありまして、例へば、「神様のやうに」正直な人と云へば、その人は、正直といふ点で、既に、相手にすばらしく「高貴なもの」を感じさせたことになり、それは一つの品位としてその人の身についたものです。ある場合、「神様」などといふ言葉は不用意に使はれることもありますが、とにかく、頭の下がるやうな、ほかの見かけはどうあらうと、決して馬鹿にはできぬといふ、一種の畏敬信頼の念
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