、俗な考へ方が世間に可なりひろがつてゐて、才子多病といふ言葉さへあるくらゐですが、これはつまり、久しい間、「文化」のかくあるべき姿を見失つた時代がつゞいたからであります。
しかし一方、健康な精神は健康な身体に宿るといふ訓へもあるとほり、逞しい精神力、殊に、頭脳と意志と感情との円満な発達と、その旺盛な活動は、どうしても、肉体が健康であることを条件としなければなりません。
それはさうと、肉体的健康は、自分にもおよそどの程度かといふことがわかり、医師の診断に従ひ、或は相当な指導者について、体質の向上、筋骨の錬磨ができますけれども、精神の健康といふことについては、第一、自分ではなんとしても正確な判断がつきかねるばかりでなく、どうかすると、人によつて見るところがまちまちであります。
現在の日本にとつて、最も重要なことは、国民の「精神的健康」を取戻すことだと思ひます。日本の国内の情勢を通じて、挙国一致、総力結集の実を挙げるために、若しいくぶんでも障碍になるものがあるとすれば、それは外でもない、古代の日本民族が世界の何れの民族よりも豊かにもつてゐた、あの健康なものの考へ方、ものの感じ方、そして
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