技術」の数々を教へ、われわれにはじめて近代文明の洗礼を授けたのでありますが、しかし、日本の技術は、果して、西洋のそれに劣つてゐたでせうか。
 この比較は、甚だ困難ですけれども、是非、一応はしておかねばなりません。なぜなら、文化とは「生活技術」なりといふ言葉まであるくらゐで、日本文化の優秀性に関する問題だからであります。
 第一に、技術の生れたところ必ず自然との関係があります。第二に、技術の伸びるところ必ず、人間の生活条件がこれに結びつくのです。日本人の自然観は、その技術を極度に自然の形態に近づかしめてゐるのに反し、西洋人の技術は、寧ろ、自然の法則を逆にとつて、自然を圧倒することに終始してゐます。それに加へて、日本の地理的条件、及び、政治的事情は、わが国民をして「人間とは何ぞや」といふ問題についてさほど悩ましめなかつた。人間の本性と能力とが、人間をして如何なる生活革新をも行はしめるのだといふ、自信と希望とを持つに至らなかつた国民とは、誠に不思議な国民であります。
 日本の技術は、それゆゑ、魂、即ち精神の籠つたものではありますが、西洋のそれの如く、人間臭芬々たるものは少く、却つて、人間離れ
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