ュ・ド・ブウエリエの『子供の謝肉祭』を選んで、その装飾を画家ドトオマに委託した。
 此の演出は、実際、劃時代的成功を収めた。ブウエリエは自然主義の病根を「自然の模倣」に在りとして、ナチュラリスムに対して自らナチュリスムを唱道し、「自然の魂」を捉へる暗示的手法を採用した。それは、今日の「超写実主義」の先駆をなしたものと認められてゐるが、『子供の謝肉祭』には、まだ自然主義そのものから区別される著しい特色は見えないやうである。たゞ、狂燥と愁訴の雰囲気につゝまれた愛慾の世界、道化た仮面の下を流れるほろ苦がい涙の味が、独特なリリスムとなつて一つの傑れた近代悲劇を形造る。そこに、在来の写実劇には見られない「感情の昂揚」がある。彼の思想には、往々かの単純主義者に見るぎごちなさがあり、その技巧には、直接ソフォクレス乃至シェクスピイヤを模倣した点があるやうに思はれるが、彼の作品は、上記『子供の謝肉祭』以後、『女の一生』『奴隷』『テエブ王エヂポス』『トリスタン・イゾルド物語』に至るまで、全体として、直截な心理描写と、超自然に対する一種信仰に似た力の肉迫によつて、極めて感動に満ちた劇的効果を挙げてゐる。
 
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