評家をして意外の眼を見張らしめたと伝へられる。が、クロオデルは、自作の上演が、如何なる結果を生むかを知つてゐる。『正午の分配』は、まだ何処の舞台でも公演を許可しないことにしてゐる。
 クロオデルが、或る意味に於て、「明日の戯曲」を導く作家であるとすれば、エドモン・セエは、この時代に於ける最も聡明にして魅力に富む仏蘭西劇伝統の継承者であらう。
 エドモン・セエには、ポルト・リシュ程の鋭さはないが、ルメエトルの繊細さがあり、加ふるにルナアルの確かさがある。
 彼は『羊』『麺麭のかけら』『若き日の友』等を発表して、近代人の心理を描くことに成功した。そして、その自然主義的手法は、洗練された趣味と気品に富む文体によつて、古典的な完成味を示した。殊に、その傑作たる性格喜劇『うつけ者』に於て、最も自由にその才能を発揮した。彼は、早くも劇作の筆を絶つて、専ら劇評に力を注いだが、最近また『秘密を託された女』を発表し、作家としての復活を企図した。然し、そこには、もう昔日の魅力を偲ばせる何ものもないやうである。
 一九一〇年、第三次美術座を起して、舞台装飾に新機軸を示さうとしたルウシェは、先づサン・ジョルジ
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