ある。彼の作品には「諷刺的神秘劇」の名が冠せられると同時に、また「象徴的社会劇」の名でこれを呼ぶことも許されるであらう。彼の魂は、加特力的信仰から生れる特殊的な理想に燃え、その体験には常人の窺ひうることが出来ない半面があるやうに思はれるが、最も傑れた詩人に賦与される調和と生気に満ちた想像力が、企まずして香り高き文体と相俟つて彼の作品に「偉大なる真理の閃き」を与へてゐる。
反ブウルジュワジイの思想、正義と寛大の信念が、その作の根柢を成してゐるところに、社会劇的の主張が潜んでゐるにはゐるが、その人物の飽くまでも「人間らしき生き方」に於て、彼の戯曲は、驚くべき熱と力とを感じさせる。
彼の劇作は、舞台的には、未だ満足な成功を示してはゐないが、彼が劇作家として本質的な天分を持つてゐることを疑ひ得ない以上、その作品の完全な演出は、未来の俳優を以てする未来の舞台を俟つより外はあるまい。彼は、今日まで既に前掲『正午の分配』の外、『マリイへの御告』『固き麺麭』『人質』等の名作を発表してゐる。『人質』の如きは、一九一三年オデオン座で上演された時、一般観衆にさへ大きな感動を与へ、連日満員の盛況を呈し、批
前へ
次へ
全37ページ中19ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング