して置かう。たゞヴォードヴィルではあるが、『自由の重荷』『村で一人の盗賊』『英語を話せばこれくらゐ』などのユウモアに富む作品によつて、殊にその小説の極めて洒脱滑稽なる諷刺によつて、現代仏国文壇に於ける特殊な地位を占めてゐるトリスタン・ベルナアルの名を附け加へてもよからう。
三、一九一〇年前後
一九〇六年にポオル・クロオデルの『正午の分配』が発表せられ、同一〇年にはサン・ジョルジュ・ド・ブウエリエの『子供の謝肉祭』が上演され、一三年にはジュウル・ロマンの『都市占領軍』が舞台にかけられた。
此の期間に於て、仏国劇の先駆的傾向は、正に著しい特色を示すに至つた。
勿論、劇壇の本流は、なほ写実的心理劇の注目すべき作品を生みつゝあつた。たゞ当時の新進作家らは、多く、分析より綜合へ、客観より主観へ、局部より全体へ、外部から内部へ、故意より無意識へと表現の対象を求め、「物語る」かはりに、「指し示す」こと、「暴露する」かはりに、「感じさせる」ことを、最も好ましき表現手段として選ぶやうになつた。
ポオル・クロオデルは、必ずしも、此の傾向を代表する作家ではない。彼は何よりも宗教的詩人で
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