と対立して、ブウルヴァアルの舞台に活動してゐた人気作者である。猶太人特有の粘り強さが劇の構成に不可思議な牽引力を与へ、詩と感興《ファンテジイ》とを離れて、急転する事件そのものゝ渦中に観客の魂を引き摺り込む。ヂレンマよりヂレンマへ、彼の戯曲は忠実な獄吏の如く、一時も心の声に耳を傾けない。そこに運命の暗示がある。希臘悲劇の美が潜んでゐると云へば云へよう。『突風』『盗人』『イスラエル』等の外、彼は最近、『氷宮』なる象徴的作品によつて新方面を開拓したと伝へられる。
写実主義の手堅さに一脈の情味を湛へて、バルザック流の人物描写に成功したオクタアヴ・ミルボオは、『事業は事業』の一作によつて劇作家としての名を成した。
劇評家として独自の地歩を占め、印象批評の輝やかしき筆を揮ひつゝあつたジュウル・ルメエトルは、『女弟子』『赦免』等の心理喜劇に、繊細な観察と潤ひある機智を盛り、「劇作にかけても人後に落ちない」器量を示したが、「あまりに洗練された趣味」が災ひをなして、「力」ある作品を創造することができなかった。
まだ名を挙げられる作家は相当にあるが、この時代を代表するものとしては、先づこれくらゐに
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