較的早く世に出で、而も『無頼漢の群』を公にするまで、単なる「韻文劇の継続者」と見做されてゐた。此の代表作を以て、彼は始めて、近代生活の詩的表現に成功したが、そこには、心理的興味も思想的魅力もなく、たゞ、美しき詩句に彩られた絵画的場面があるばかりである。
新浪漫派人情劇の作者として、一時、ブウルジュワ階級の甘美趣味に投じたアンリ・バタイユは『ママン・コリブリ』の一作を以て、当時世論を沸かしつゝあつた自由恋愛の悲劇的顛末を物語らうとした。
彼は前に云つた如く、飽くまでも人情劇作家である。客間の心理解剖家であると同時に寝室の詩人である。ポルト・リシュの鋭利さはないが、その観察には常に「青春の焔」が燃えてゐる。そして「恋の闇路を踏み迷ふ……」と云つた調子の狂乱の場や、「散り失せしこそ哀れなれ」式の愁嘆場を通じて、勿論、これほどまでゝはないが、可なりの通俗味がある。然し面白い。彼は凡庸作家ではない。それどころか、稀に見る劇的才能の所有者である。
彼は、その他『結婚の曲』『裸体の女』『狂へる処女』などを残して早く世を去つた。
「動き」と「力」一点張りの悲劇作者アンリ・ベルンスタインはバタイユ
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