悲劇味が、彼の芸術の、最も好ましい代弁を務めてゐる。
自由劇場から生れて、独り新しい道を開拓した森林の哲学者、フランスワ・ド・キュレルは、『新しき偶像』『鏡の前の舞踏』『獅子の食膳』『聖女の半面』等の思想劇を提げて、先づ、仏国に於けるイプセンの影響を示し、文化と獣性の争闘を描く近来の諸作『狂へる魂』『修羅の巷』『天才の喜劇』等は、深い瞑想と明るき理智とを以て、動もすればヴォードヴィルに堕しようとする題材に溌剌たるファンテジイと鷹揚な気品とを与へてゐる。
文学の本質を思想に置き、一作家の価値をその哲学的根柢によつて定めるものとしたならば、現代仏国の劇作家中、彼こそは、小説壇に於けるブウルジェ、詩壇に於けるヴァレリイの地位を占むべき作家であらう。
彼は何よりも先づ「文明人の裡に巣食ふ野性」の記録者である。彼自ら、モンテエニュの思索的好奇心と、ミュッセの理智的想像の遊戯とを、自己の作品中に併せ盛らうとする企図を仄めかしてゐる。この宣言は、一面より見れば、可なり意外の感がないでもないが、彼が小説といふ表現形式を棄てゝ、一図に戯曲に頼らうとする意嚮を語るものであらうと思はれる。
実際彼は
前へ
次へ
全37ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング