あつたが、徹頭徹尾、写実の色を以て舞台を塗り上げた劇的天才は、云ふまでもなくアンリ・ベックである。
『烏の群』『巴里の女』の二篇は、『戯れに恋はすまじ』の作者、浪漫派劇詩人アルフレット・ド・ミュッセと共に、彼を十九世紀に於ける仏国最大の劇作家とした。
自由劇場は、畢竟彼の作品に、文学的ヒントを与へられたと云つてもいゝ。
「舞台は人生の断片なり」と称へ、『セレナアド』『海』『主人』等の諸作を以て「活きた芝居」の標本をしめさうとしたジャン・ジュリヤンは、明かにベック門下の駿足であり、自由劇場と生死を倶にした唯一の闘士であつたが、一篇の田園悲劇『アルルの女』によつて、当時のメロドラマを一蹴し去つたアルフォンス・ドオデの純真な魅力に敵することは出来なかつた。
ウージェエヌ・ブリュウは、ジュリヤンと並んでアントワアヌの事業に参与した劇作家である。彼の所謂「社会劇」は真摯な正義感に満ちてはゐるが、全然心理的のデリカシイを欠き、テエマの露出と冗長な論議とを以て安価な感激をそゝるに過ぎない。その数多き作品中、『揺籃』『法服』『弁護士』などは相当の世評を博しはしたが、処女作『ブランシェット』の素朴な
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