ふ価値がある。
ロスタンは、此の一篇によつて、彼の芸術的天分を遺憾なく発揮したのみならず、前に述べた如く、時代人の芸術的欲求並びに国民的憧憬を十分に満足せしめた。これは、芸術上理想主義の勝利を物語り、一方演劇に対する民衆の浪漫的趣味を証するものであると云へよう。殊に彼の理想主義は人生の真理に即する古典的理想主義であり、その人物はそれぞれ特色ある「性格」によつて対立し、劇の推移は、作者の詩人的感受性によつて必然的に整理されてゐる。彼の浪漫主義は決して単なる感傷と誇張に終始してゐない。彼は千八百三十年代の浪漫主義に、千六百四十年代の浪漫主義を結びつけてゐる。ユウゴオの浪漫主義に、スカロンの道化味《ビュルレスク》とコルネイユの英雄主義《エロイスム》とを結びつけてゐる。そこから仏蘭西人の伝統的な生活の色彩が反映する。勇壮にして傷み易き心、快活恬淡にして而も世を拗ね人を嘲る性格、才気と詩想に富みながら稀代の醜貌と「岬」の如き鼻――これが銃士《ムスクテエル》シラノ・ド・ベルジュラックの全幅である。(春陽堂版辰野鈴木両君訳『シラノ・ド・ベルジュラック』参照)。
ロスタンはなほ劇詩『シャントクレエ
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