ものはすべてエトスより出て来る」とも云はれてゐるのは味ふべきことで、若し風俗が道徳と関係があるとすれば、風俗こそ、道徳の根柢なのであつて、徒らに風俗の改良を道徳の力にのみ委ねようとするのは、本末顛倒も甚だしいと云はねばならぬ。
 そこで先づ、現代日本の風俗の特殊な点を観察すると、最近の国民の心理と、時代の転換に伴ふ新旧文化の交錯といふことが著しい原因として数へられる。
 言語動作、流行趣味、礼儀作法、延いては、物の価値標準、社会秩序、すべて、これを風俗としてみて、異常、変調である。
 そこには、もとより、頽廃もないではない。しかし、それ以上に、混乱より来る不安定と、棄てるものを棄て去り、身につけるべきものをまだ身につけてゐない空白の状態とがある。頽廃も混乱も空白も、つまり、外観は野蛮に通じるのである。

       四

 それゆえ、道徳性の弛緩といふことが、現象としてはたしかにそれらの風俗のなかに見られないことはない。けれども単なる道徳観念は、それが直ちに行為となつた場合でさへも、人を打つ力はないのである。道徳が真に民衆の理想を導き、これに醇乎たる人間的な生活の裏附をするためには、
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