見よう。マアテルリンクの『めくら』がつまらないのに引きかへて、ポルト・リシュの『過去』は、やつぱり面白かつた。台詞の一つ/\に引きずられて行く。女主人公ドミニックの生活を通して、『めくら』どもが何か解らずにゐるものをはつきり見せてくれる。
 マアテルリンクが、あれほど世界的に騒がれたのは、確かに、一つの新しい傾向を示したからでもあり、フラマン人独特の神秘感が、作品にユニックな味を与へてゐるからでもあるが、これよりも第一に、彼の用語が平易であり、未熟なフランス語の知識を以てさへ、充分に読みこなし得る便宜があるからであると思ふ。さういふ例は外にもある。ワイルドのサロメの如きは、その最も甚だしいものであらう。
 これに反して、ポルト・リシュのやうな作家は、その作品が最も洗練された口語体で書かれてあり、最もニュアンスに富む俗語の詩的表現である所から、特殊な生活の色調を外にして、その芸術の妙味を捕へることは困難である。この意味で、非常に、世評の上で損をしてゐるといつて差支ない。
 勿論、私とても、ポルト・リシュが、所謂「偉大な作家」として凡ゆる条件を具備してゐるとは思はぬ。その点からいへば、なる
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