ばかりでありません。西洋でもそういうことが度々あります。殊に日本の古い芝居の如きは、その中の主な役をとった役者が、最も舞台の中心になって見物の注意を集めなければならない必要上、必ずしも芸術的な効果という点ばかりでなく、その俳優が自分の権勢慾、名誉慾のために、他の役者を犠牲にするというようなことが、今日もなお行われているようです。これは決して芝居の本当のよさというものを見物にみせることにならないのです。こういうことが行われているということが、実際、俳優というものの社会的品位を非常に落しているのです。
同じ俳優同士でも、その中に先輩、同輩、後輩というものが自ら分れるわけです。先輩、同輩、後輩というものに対する、それぞれの誇りと嗜みというものは、先程いった職業人として表に持っているべき誇りと嗜みということから一歩も外にでない筈だと思います。先輩からはいろいろな指導も受けなければなりません。同僚からはいろいろな相談を受けなければなりません。後輩からはまた、いろいろな刺戟を受けなければなりません。よく俳優が舞台の経験を積めば積む程、或るものを失って行き、舞台の経験の全くない、或は浅い俳優が持っ
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