ているものによって、同じ舞台の上で自分の演技の魅力をそがれてしまう、というようなことを聞きます。これは芝居の方でも、映画の方でもそういうことがある。経験のあるものが経験のないものより魅力がないということがあるのです。これは経験のある、つまり先輩たる俳優にとっては、実に容易ならんことであって、度々問題になるのですけれども、それについてここでは詳しくは云いませんが、それは先輩たるものが俳優としての修業の積み方に、どこか不完全なところがあったということであります。いいかえると、素人のうちはもっていたいいものを失っているのです。而もそれは俳優として大事なものです。舞台の経験がそれを失わせるのではない。永い俳優生活の惰性が演技を型にはめてしまったのです。こういうことを、後輩の、つまり若い、自分よりも新しい俳優によって、絶えず見せつけられているのです。そこに一つの大きな脅威がある。しかし、それをただ脅威とせず、それによっていい刺戟を受け、自分の中に持っているものが失われないように、常に反省すべきです。
 その次は見物です。
 見物のことをお客という。お客さんということは、金を払って来るからお客さん
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