芸術が一般観衆の心に訴えられると同時に、俳優の方からいうと、優れた作者があって初めて自分の才能を引き出して貰えるのです。
 昔から、一人の役者が、一人の優れた作者を得た為に一躍自分の名声を高めたという例が沢山あります。日本でも、割に近い例で、この間死んだ市川左団次が、岡本綺堂という作者がいた為に俳優としても非常ないい仕事をすることができました。日本では昔の芝居の因襲から、作者と俳優の関係が二通りに考えられている――即ち座附作者と座附作者でない作者とが考えられている。こういう例は日本以外にないのです。一方に、俳優がこういう役をやりたい、こういう役を書いてくれといえば、その命に従って書くというような作者と、もう一つは、作者が書いたものは俳優は全然自分の意見をそれに加えることができないで唯々諾々とやらねばならない、そういういかめしい作者と、二通りしかありませんけれども、作者というものは元来こんな風にどっちかに偏ったものではないのであって、俳優と作者とは実に演劇の上では一番密接な友達なのです。西洋では、自分のかいた作品を、自分の好きな尊敬する俳優にみせて、その俳優の意見をきいてその作品を修正し
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