一律に考えるところに、いろいろ妙な現象が起るのです。例えば、演出家の方からいうと、あの俳優は生意気だというようなこと、或は俳優の方からいうと、あの演出家はちっともこっちのやりたいことをさせてくれないというようなことなど、いろいろ妙ないきさつが起る。演出家と俳優との間には、いろいろな段階がある、いろいろな組合せがある、ということを考えないから、そういうことになるのです。これは実際舞台に立つ場合、或はカメラの前に立つ場合に、そのことを十分考えていなければ愉快な仕事ができません。
 作者と俳優との関係についていいますと、俳優のことを西洋ではインタプレートという言葉を使っている。これは普通、通訳という意味に使うのですが、ここでは通訳ではない。作者のいおうとすることを代っていう役という意味です。そういう意味で俳優のことをインタプレートといいます。そうすると、これは作者の代弁者です。作者が自分の作品のなかで、ある人物を創り出す。するとその人物を、一人の俳優が、作者の思いのままに舞台の上で表現してくれる。この俳優と作者との関係というものは、実に密接な関係です。作者にとっては、俳優があって初めて自分の
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