ということをいったわけです。これは実はワグネルが自分の専門とする歌劇について論じた一つの意見ですが、そのワグネルの歌劇論が近代演劇論の口火になったのです。その為に演劇は綜合芸術なりということを、今日もなおいう人がいます。その点では私は少し意見が違う。意見が違うが、しかし、それはそれとして、芝居は多くの人達の協同作業であるということは、これは間違いない。非常に沢山の人が力を合わせて作りあげる仕事であるということは間違いない。そういう意味で、今あげた人々とは、いろいろな関係で共同の責任を分ち合わなければならない。
 先ず、企業家は概して資本家です。しかし企業家対俳優というものは、これは決して資本家対労務者ではない。また、封建的な意味に於ての主従関係でもない。それはやはり他の生産部門と違った、特殊な関係であることを考えなければなりません。俳優を今日の興行者は決して単なる労働者として扱っていないでしょう。また主従関係に於ける如く隷属視していないと思うけれども、どうかすると、この資本家対労働者、或は主従関係というようなものが、何か隙があれば流れ込んでくる惧れが多分にある。それは一方興行者側に於て
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