嗜みということを加えたいと思う。俳優もやはり一つの職業人です。その職業人としての誇りと嗜みというものがなければならない。この点がまた、今日まで俳優道徳というものに欠けていた点です。職業人といえば、その職業を遂行する上に於て、いろいろな人的関係というものが生ずる。いろいろな人を相手にしなければならない。その相手にする人というのは、先ず企業家です。演出家です。或は脚本家です。俳優としての同僚です。更に見物、或は批評家というものがあります。こういう人たちと絶えず接触をしなければならない。即ち職業人として、如何に誇りをもち、如何に嗜みをもって、そういう人達との関係を秩序あるものとして行かねばならぬかということは、俳優の道徳として非常に大事なことです。これもごく簡単にお話します。
 先ず演劇は綜合芸術だということをいいます。綜合芸術だということは、いろいろな芸術の部門が集って、それらの協力によって出来上った芸術という意味ですが、しかし綜合芸術という言葉は、実はドイツのワグネルが芝居に対して初めて使った。音楽、美術、舞踊、文学そういういろいろな要素によって芝居が出来上っているという意味で、綜合芸術
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