かもしれない。しかし、その場合に最も厳粛な態度というものが要求される。この厳粛な態度というのはどういうことかというと、その道徳の埓から万一一歩ふみ出した場合に、その責任を悉く自分が負う。その為に自分はいわゆる神の怒にふれることを覚悟しなければならない。それがただ口だけで、どんな罪でも引受けるといって大きな顔をするのではない。万一道徳の埓外に踏み出した場合、非常に激しい悔恨、非常に大きな苦痛をその人間は実際に味わなければならないのです。またそれが味えるような人間でなければ本当の芸術家ではない。そういう覚悟と良心をもって事に当り、生活を律するのには、大きな勇気がいります。この勇気が、高い意味に於ける道徳の追求である。そして、そういう生活態度が、即ち厳粛ということなのです。この辺は先程もいいましたようにデリケートな芸術家の生活の道でありますから、みなさんは今後の修業に於て、ただ単に芸の修業を心掛けるばかりでなく、芸術家としての心構えのうえで、十分想いをひそめ、みずからさとるところがなければなりません。
もう一つは、一般の人は大体に於て控え目である。或はまた、地味にものごとをするというのが、
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