度を守ることは、これは道徳の上から別に非難の余地はない。むろん消極的です。しかし、努めてできることはこれくらいのことです。しかし、人間はある時は芸術家であり、ある時は政治家であり、事業家であり、兵隊である。いわゆる真面目さということだけが、その人の身上ではない。それよりも、もっと大事なことが人間にはあるのであって、俳優の場合に於てもそうである。日常生活の小さな部分にまで気を配って、ひたすら真面目であろうと努めるような、そういう努力は、これは芸術家として自分を伸すことではない。そういう生活によって、なお且つ、芸術家として自分を伸し得る人もあるかも知れない。これはないとは保証できないが、それはすべての人にあてはめてその人の為になるということは保証できません。これは道徳の話としては非常にデリケートな話で、よく私のいう意味を酌んでいただかなければならないけれども、少くとももっと積極的な、大胆な生活というものがある。当って砕けるという生活の中に、本当の芸術家としての自分を伸ばす途がある。しかもそういう生活が必ずしも道徳と矛盾する途ではないのです。ある時は道徳の埓外へ危く踏み出そうとすることがある
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