先ず美徳とされている。また一方では、あまり喜怒哀楽を顔に出さぬ方が奥床しく、立派だという風な考え方もあるようです。日本人の風習がそれを教えている。しかし、俳優の場合には、それが意識的にそうであるのは差支えないとして、素質的にそうなってしまっていては、これは少々困るのです。俳優はその性格としてエキスペンシィヴであるということ、つまり、自分の感情を思いのまま、外にはっきり見せる、そういう性質がむしろ得なのです。そのエキスペンシィヴであるということが、俳優の一つの特権であっていいのです。普通の人ならば、そうまで要求されない感情の動きの現わし方が、俳優の場合には、少し極端でも許されると私は思うのです。なぜなら、そういう訓練を平生から心がけておかなければ、舞台の演技は生彩を失います。
 普通の人なら、うまく云えないと思って黙っているようなことでも、俳優はどしどし云ってみるがよろしい。普通の人は自尊心から、或は謙遜から物をいいしぶる。俳優には、その自尊心も、謙遜も、時には無用です。ものを外に素直に出すということを心掛ける必要がある。これは普段の生活に於て心懸けるというよりも、そういう性質を持ってい
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