のは実際目の前にあるものを見て、そのものの状態と特色をはっきり識別する力です。
 例えば、そこに二人の青年がいる。その二人の青年は違うということは別に観察力がなくてもわかる。しかしどう違うか。それを仮りにある人にいって貰いますと、そのいい方で以て、その人の観察力がテストできる。勿論、一口にはいえない。一口にいうことが必要なのではない。ここも違う、あそこも違う。それをあげてゆく間にその人の観察力というものがわかる。而もその違うという点はいろいろな点が違うのですが、しかし大事な違いと、それほど大事でない違いがある。大事な違いを見落さないことです。これを観察力に富んでいる、或は観察が鋭いという。洋服の色が違う、一方は黒、一方は鼠、それは誰でも気がつく。それは気がついてもえらくない。観察力があるとはいえない。片方は眼鏡をかけて、片方は眼鏡をかけていない。普通の人はすぐにそういういい方をする。髯が生えている、片方は生えてない。顔が赤い、片方は白い。そんな表面的な違いだけなら誰でもわかる。観察力がなくてもいい。しかし、この人は観察力をもっている、この人の観察力が鋭いといえるのは、そういう一般的な違
前へ 次へ
全106ページ中62ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング