いを残らず頭に入れ、しかも、もっと人間として根本的に違う点を、ちゃんと見落さないことです。観察力が鋭いということはどういうことを意味し、どういう利益があるだろう。もうひとつ例をあげると、ここに一人の青年がいる。この青年は初めて見るのだが、一体何をしているんだろう? この問いに、間違っても非常に面白い答が出せる人は観察力があるといえる。例えば諸君のうちには、既に舞台の経験を積んだ人がいる。そういう一人を初めてみて、これは俳優だといいあてるものがあったら、これは観察の天才です。殊に新劇の俳優というものなどを、そう誰でも、俳優だといいあてることはできません。しかし、そういう風にぴたっと当てないでも面白い返事というものはある。非常に俳優という観念にあてはまらない、新しい一人の俳優に対して、この人は何をしている人だろうといった場合、それの面白い返事は何かというと、非常にそれと近いか、或はかなり遠いけれども、その職業と俳優とは一点共通なものを持っている、他の面では非常に違うが、ある一点だけ共通しているものを持っている、そういう職業をパッという。それが面白い返事です。そういう返事ができる人は観察力が
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