が生えているような状態になって残っているというだけではいけない。それが必要に応じて自由自在に動かし得るような状態になっていなければいけない。これが人間の想像力というものの土台になる。ですからかりに先天的にそういう性質をもっている人間がいたとしても、やはり経験というものがそれを生かすのです。その経験というのは、決して自分があることをするということばかりが経験ではない。小説家があることを想像で描くということをいいますが、その想像力はやはり経験というものが土台になって、そこでその働きが生れるのです。しかし、小説家が自分の小説に書いたような事柄を悉くやっているのかというと決してそうではない。これも経験という言葉の意味を非常に狭く解釈することになる。本をよむこと、人から話をきくこと、或は人の話と自分で見たこととを結びつけて、そこでまた一つの新しい経験を得るということもある。
想像力と観察というものとは普通違ったものとされていますが、観察というものが非常に綿密に確かにされていなければ、想像力というものがやはり決して豊かなものになりえないのです。観察力と想像力とは違ったものですが、その間には非常に
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