は、作者の意図に反することなく、いくらでも生々と、その役らしく演じる自由をもっているのですから、想像の範囲なるものは、決して限られていません。それが優れた役者であるならば、その作品全体を読んで見て、その人物を作者が求めている以上に、ぐっと面白く想像してみることもできるわけで、これは、何人も、そういう自由を妨げることはできません。俳優が自分の演じる役を面白く生き生きと想像できればできるだけ、その芝居は面白くなる。これが、いわゆる演技以前の演技といわれるものです。
 あとは俳優がそれぞれの人物を精いっぱいに表現することが残るだけです。しかもこれを表現するために、例の感受性とともに、この想像力が再び働かなければなりません。
 想像力はどこから湧いて来るか。丁度さっき感性の所でいいましたように、今までの経験で記憶というものの堆積が誰にでもありますが、そういうものを自由に組み合せることのできる能力というものが想像力の土台になる。
 頭の中にいろいろな経験というものがつみ重ねられて、それが記憶となって残っています。その記憶がただ固定して、動かずにいるだけでは、ただ記憶の役目しか果しません。それに黴
前へ 次へ
全106ページ中59ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング