。例えばいろいろな職業、いろいろな仕事によって、その人間の立派である部分がそれぞれ違っていて差支えないと私は思う。その人の特性というものがすべての点で人に優れているということは理想である。そういうことは事実望めない。それぞれの社会のいろいろな部門で働く人々が、自分の役割を完全に果すうえで、一番都合のいい特質を備えていることが必要であります。しかし、それとは関係なく、ただの人間として、どこか一点、人にすぐれているところがあっても差支えない。
 俳優は、そういう具合に、どこか一点人より優れているということが大事であります。俳優の場合は、特にこれが必要だと思う所以は後で述べますが、決して、顔かたちが人より美しいというようなことを指すのではありません。それよりも寧ろ、個性の伸び育った美しさを持たなければならない。その上でその自分を立派に平生演ずるということは、そういう自分を完全に表現するということです。ところが、俳優以外の人は仮りに或る点で非常に立派な個性をもった人であるとしても、しかしそういう立派さというものをどうかすると拙く表現する場合が沢山ある。ですから、見るものが見なければわからないと
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