す。それでこそ立派な俳優と云えるのだと私は思います。そういう態度で生きていることは、今度は逆に自分のもっているあらゆる肉体的精神的魅力を駆使して、舞台の上で与えられた役を、十分に演じ活かすことの訓練になるのです。
そうであって、初めて、自分以外のある人物の魅力を頭のなかで立派に作り上げて、観衆を楽しませる能力があるというわけです。ですから、俳優の立派であるか、へっぽこであるかということは、それは決して舞台の上にあがって、ある役を演じてはじめてわかるのではない。平生、彼が人間として、どこか素晴しい魅力があるかないかということで判断がつくのであります。
そこで、自分の役を立派にやるということに、更に附加える一つの条件がある。その自分というものが立派であるに越したことはないということです。名優というものはそういう意味でどこか立派な自分というものを持っている。そうして、立派な自分というものを、平生立派に演じているわけです。これが名優中の名優です。「どこか立派」と私は云いましたが、これは人間のことですから、すべての意味に於て立派であるということは、望むべくしてなかなか実際にはそうはいきません
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