の言葉をどう細かく分析して見ても、それは嘘にはなりません。自分の役というものは唯一つしかない。その役を立派に演ずるということも唯一つしか演じ方はない。普通の人間――われわれ俳優でないものは、自分以外のものにはなれないと同時に、自分というものをそれほど研究していませんから、自分が人にどう見えるかということはそんなに気にしません。勿論、普段工夫を積んでもいない。気取りというものはないことはないけれども、自分の存在が相手に快感を与えるということを必ずしも義務とも誇りともしていない。女の人はこの意味から云うと、いくらかは誰でも俳優であります。それでも普通の人は、自分の人間的魅力というものに対して、そう自信はない。美しいと誰からでも云われる人がややそういう自信をもっていて、それが時によると、人を反撥させることにもなるのでありますが、俳優はいろいろの意味で、人間の魅力とはなにかということをちゃんと心得ているのであります。そして自分はそういうものによって人から愛されていることを自覚し、そこに生活の一切を委ねているのです。この自分の役を立派に演ずるということが、俳優の他の普通の人間と違った一つの特徴で
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