の仕事に対する偏見の原因もこれで一通りわかり、またその原因に対してどういう態度を取らなければならないかということもこれで一通りわかったと思いますが、その次には人としての俳優をどうみるべきか、という問題、これはここで私が話をする俳優倫理というものの愈々倫理らしい所になって来るのです。
先ず俳優の仕事の特殊性から来る問題があります。俳優芸術というものの性質上、先程申しましたように、俳優が俳優として一般公衆に見える時には、自分というものの姿ではなくして、自分以外の或るものの姿で一般に見えるということがまず普通です。そうすると、今度は逆に、俳優が自分自身の姿で一般の人に見える時はどうであるか。これが先ず人としての俳優を考える場合の一番大事な所です。俳優が素顔でいる。この「素顔で」ということをよく云う。舞台の扮装をしない、舞台の役を通じないで、何某という俳優が普段の儘の姿で人に接し、世間に向う時、その俳優は一体どういう態度で人に接しているか、或は俳優は平生自分の生活の中ではどういう気持で生活をしているだろうかということを考えてみます。
いくら俳優でも、舞台以外では、普通の人間とちっとも変った
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