しかし、それがやはり一つの誤解となっている。もう一つは肉体というものが精神と比べていやしい或はけがれたものであるという、一つの非常に素朴な宗教的なとも云える考え――これも亦俳優芸術というものをはっきり権威づけ価値づけるために、十分改めさせなければならぬ観念であります。将来、俳優芸術を守り育て、それを社会一般に正当に認識させる為には、この三つの点を十分是正する必要があると思う。
第一に、俳優の仕事は、決して偽りの仕事、或は人をだます仕事ではないということです。そういう考えは先ずどういう風に是正したらいいか。これは相当世間に深く入り込んでいて、なかなか一朝一夕で改められるものではないと思うが、しかし、結局は舞台の上で俳優が演じるその演技というものの真実性――演技があくまで真実を伝えるものであるという、その仕事の意味をはっきり徹底させることが必要です。俳優の演技は他の芸術と全く同じように真実が最も大事なものである。真実を伝えるために俳優の演技というものがあるのです。これは他の芸術と全く同じである。
その真実を伝えるということが俳優の演技のなかに本当にみられることによって、先ずそれは是正し
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