も有名なのはフランスのジャン・ジャック・ルソーという人です。ルソーは御承知だろうと思うけれども、いわゆる近代思想の一方の代表者で、文学の上でいわゆる自然主義の開拓者の一人です。つまり、人間は自然にかえらなければいけない、人間のいろいろな粉飾というものを去って自然にかえらなければいけない、一口にいうとそんな倫理を説いた人ですが、そういう人であればこそ、芝居というものがそもそも面白くなかったのでしょう。殊に俳優の業というものは一人の人間を最も自然の姿から遠ざけ、いろいろな粉飾を施すことによって自己を没却してしまうもののように見たのです。これはルソーの倫理学からいえば、一つの邪悪である。ルソーはそういう風に一つの哲学的立場から俳優の仕事というものを非難し、軽侮している。この考え方はいわゆるルソー流の考え方で、世間一般はこれほどはっきりした思想の上に立っていませんが、理屈をつければそういう理屈になりうるような、そういう感情が一般にあることを、先ずみなさんは知っておいていいと思います。またそういうことを薄々感じていられる方もあると思います。しかし、俳優の芸をこういう風にみることは、即ち演劇という
前へ
次へ
全106ページ中35ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング