つの道徳論としては、勿論そういう人間の夢を批判する余地はあります。そういう夢を抱くことが果して正しいかとか、果して人間としてけだかいことであるかとか、そういうことの批判はあります。しかし、事実として人間の赤裸々な姿を考えた場合には、人間の一面にそういうことがあることは決して忘れてはいけない。つまり人間は神の心を宿し、同時に悪魔の心を宿し得る。神であると同時に悪魔である。神であると同時にということはいい過ぎかも知れませんが、神の一面をもっていると同時に悪魔の一面をも持っている。そこに人間の面白さがある。そういう面白さというものがつまり芸術を生み出すのです。
芸術はある意味で人間の研究である。人間研究のメスはその人間の二つの面に容赦なく加えられなければならない。容赦なく加えることで初めて人間研究はできる。
そこでもう一度前にかえりますが、俳優の天職というのは、そういう人間の姿を普通の人間が現実の生活に於てはいろいろな事情、いろいろな条件でそれを現わすことが出来ない、満足させることが出来ない、そういう人間の羨望をいろいろな機会にいろいろな形で俳優は身を以て舞台の上でそれを示す。それを示す
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