り、非常に悪魔の如くでもある。また同時に優しい所もあり、虫けらの如くきたない所もあるのです。そういう複雑な姿をもった人間の夢はなんでありましょうか。これは必ずしも美しい夢ばかりではない。神聖な高い夢ばかりを描いているのではない。そこで、俳優が自分の仕事を真面目に考える時に、よくそれを分析してみる必要がある。例えば、ここでもし人間の夢というものが非常に美しい神々しいものであるならば、俳優は決して舞台の上で悪魔の役をしたくはないし、また人間の夢が非常に贅沢なものであるならば、俳優は舞台の上で一つの苦痛なり悲しみなりの表現というものをするのを決して楽しいと思わない。しかし、人間の夢というものは、今云ったように、複雑なのであります。そこで人間は、自分が悪人であったら、或は自分が非常に大きな苦痛を味ったらと、そういうことを空想することの快感というものを持っている。何故そうであるのかというと、それは結局自分は現実の生活に於てそうでありえないという決定的な事実に基づいている。現実の生活ではそうありえないということを、ただ空想の世界に於てだけそうありうることが、人間の夢なのです。そこが楽しいのです。一
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