れと同時に俳優は今日もなお、一つの劇場に集るところの大衆の、人間としての本能、即ち先程もいいましたようにいろいろな意味に於ける近代人の夢を、俳優の演技というものを通して初めて現実の仮感として自分の身に感じることが出来るのであります。いいかえると、俳優はそこにいる大衆のすべての一人一人に代って、それらの大衆の夢を育てている魔法使です。
そこで、人間というものを先ず考えなければならない。人間の夢と私はいいましたけれども、人間の夢というものは実に厄介なものである。非常に美しい夢もあるけれども、しかし、美しいばかりが夢ではない。人間は複雑である。その人間が複雑であるほど夢も複雑なのであります。人間は神に近づこうということばかりを夢想しているのではない。人間は自分にいろいろな弱点をもっている。そして、そのいろいろな自分の弱点を、ある時は否定し、ある時は肯定し、ある時はそれを抑圧するけれども、ある時はそれを利用する。人間は様々の欲望を様々な形でとげようと望んでいる一つの動物なのです。そこで人間というものを必要以上に美しく考えることはない。人間の本来の姿は美しくもあり醜くもある。非常に神々しくもあ
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