けで以てラジオ・ドラマが出来ているという単純な考え方は、この芸術の仮感というものの重要さに気がつかない結果だといえます。
そこで俳優芸術に於ける現実の仮感ということをいいましたが、舞台に於て演じているところの俳優の演技は、これは現実に於て生活している一人の人間の動きなり、言葉なりというものではない。しかし、恰もそれであるかの如き感じ、そういうものが同時に芝居をみるものの心の中に湧かなければいけない。見ているものの精神の中にそういう状態が惹起されなければいけない。俳優の演技がそういう状態を惹起する力を持っているのは、つまり、俳優の演技の中には現実の仮感というものがあるからです。これを略して現実感ということをいいますが、文学などでいう現実感――リアリティというものとちょっと違いがある。現実感によって呼び起されたところの印象ということが云い得ると思うが、現実感そのものではない。しかしまた、これはまるで本当のようだということとも違う。俳優の演技というものは実際の現実の生活のなかの本当のことと全然違わなければいけない。現実の生活に本当にあることは、これは芸術でない。俳優の演技というものはそうい
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