な疑いが私の話で起った場合には、ちゃんと書きとめて後で質問してほしい。これは一つみなさんにお願いしておきます。そうしないで、漠然とこういう抽象的な話を聴きっぱなしにしておくと、なんにもならないと思います。ここで持ち出した問題については、もう一度自分の頭を使って考え直す、自分で納得の行くまでそれを考えた上で、更にその問題を段々押し進めて行く、発展させて行くということが、こういう精神的な問題を考える時には大事なのです。普通、倫理とか修身とかいうものがつまらないのは、先生がそういう話をする、それを聞きっぱなしにするからつまらないのです。だから、大概学校ではつまらないということになっている。われわれもそういう経験がないではない。そのつまらない話を引受けるのですから、それを別に面白くする方法はないのです。そういう学問は、結局、教師が喋って生徒が聴きっぱなしにすれば、どんな話でも面白くないものなのです。その問題については、それを聴くものめいめいが自分の頭を使ってその考えを押し進めていく。そうするとあるところにぶっつかってそれから先は進まない。進まないというのは自分に疑いが起るか、或はそれから先は自分の頭で考えられない一つの大きな世界が拡っているから、そういうことにぶっつかる。頭の出来てない人は打突り方が早い。頭のねれた人は相当奥まで入って行けるが、結局ぶっつかる。どんな頭の人でもあるところに行ってぶっつかる。そのぶっつかるまで自分が考えるということがこの精神的な問題を取扱う面白さです。ですから、それを皆さんに予めお願いをしておきます。
それでは、俳優とはなんぞや、という問題から始めます。みなさんは俳優になろうという志望をもっておられる。してみると、俳優というのはどういうものだということに就いてはきっと考えていられるだろうと思います。実はここで一人、一人にその問題についてこっちから質問を出して、返事をして戴きたいのです。別にテストするわけでもなんでもないのです。ただ、そういう問題を一緒に考えるという意味で、自分の考えていることを自分で纏めて返事をして戴きたいのです。俳優とはなんぞや、その返事をきく前に、そういう問題について考える材料をみなさんに提供します。
俳優とはなんぞやという問題は、これに答える方法はいろいろあります。今日まで、やはり俳優という言葉の定義というものがいろい
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