劇壇の糟粕を嘗めて、気息奄々たりである。
 ここで私は、誰にといふことはないが、一つの提議をしたい。それは速かに新劇俳優の養成機関を設け、やや理想的に舞台的教育を施すことである。
 さてその次に来る問題は、何人がその任に当り、如何なる組織と方法が選ばれるかといふことである。
 その前に一寸お断りをしておきたいのは、所謂、俳優学校無用論についてである。この論者の根拠とするところに、由来、西洋の例に見るも、俳優学校の課程を踏まない名優がいくらもゐるといふこと、俳優学校の課程は踏んでも、在学中又は卒業時の成績があまり思はしくないために、何人の注意も惹かなかつたものが、それ以後に於て俄然頭角を現はし、一代の名声を博したものが可なりあるのに反して、優等卒業生が、実際の舞台では一向才能を認められず、平々凡々な生涯を送つた例が少くないといふことである。
 この論拠については多言を要しない。それは俳優学校に限らないからである。音楽学校然り、美術学校然り、更に文科大学然りである。要するに、官学あつての私学、学校あつての独学である。
 国立演劇学校《コンセルヴァトワアル》の教育を攻撃するアントワアヌや、ジ
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