る。作家がこれ等の人物を観る「眼」は、俳優がこれ等の人物に扮する場合、常に「ある要求」をしてゐるのである。その要求は、それらの人物の如く単純な頭では、これを理解することができないであらう。それ等の人物の如く無教養では、これを感得することができないであらう。この隔りは、直ちに、「柄」の隔りを生ずるのである。この点に、多くの俳優は気がついてゐないらしい。即ち、俳優の外貌が、如何にもその人物らしいといふ点でのみ、「柄」が云々された時代はもう過ぎ去つた。それよりもその人物を創造した作者の霊感に触れて、その作者が、その人物に加へた「ある批判」を批判し、作者が、その人物に対して抱く「ある興味」を興味とし得る俳優こそ、第一にその人物に於ける「適《はま》り役」といふべきである。
底本:「岸田國士全集20」岩波書店
1990(平成2)年3月8日発行
底本の親本:「現代演劇論」白水社
1936(昭和11)年11月20日発行
初出:「演劇新潮 第一巻第二、三号」
1926(大正15)年5月1日、6月1日発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志、小林繁雄
2005年10月6日作成
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