者に含嗽《うがひ》をさせ、手術着を脱いで出て行くと、その後から、きまつて、筒井莞爾君は、国民服に脚絆を巻いて、見学に出掛けて行く。
訓練はだん/\激しくなり、本格的になつて来た。女軍の奮闘は特に目覚しかつた。濡れ筵を盾にして燃えさかる焼夷弾に突進するお向ひの奥さんは、薄化粧の頬に決死の色をみせてゐた。
いよ/\、負傷者を救護所へ運ぶことになつた。急造の担架が用意され、腕つ節の強さうな二人が選ばれた。強さうなといつても、女は女である。腰を屈める形もまことに優美である。
負傷者が指名される段になつてみんなが今度は、尻ごみをした。手を放されたらおしまひといふ危険がある。
「僕ぢやどうです」
と、この時、筒井莞爾君は、意気揚々と名乗つて出た。
女たちは、互に顔を見合はせた。
「なんにもお役に立たないから、それくらゐのことでもさせて下さい」
彼はもう、担架の上に長々と寝そべつた。
一、二、三で、担架は宙に浮き、弾力ある繊手を背中に感じながら、筒井莞爾君の両眼は晴れた青空の下を滑つた。
街筋は、ものみなが動いてゐた。警防団の制服が右往左往し、ホースが水を吐き、屋根が揺れ、梢は踊つて
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