み、われわれと共に教へを受け、日本人の心を心とし、日本の有難さを知り、再びアメリカへは帰らない、この土地のものになつてゐる筈だと思ひます。われわれは、一人のアメリカ人も、皇威にまつろはぬ限り、生かしては置きません。しかし、十年間、日本の学校にゐたアメリカ人形を、日本の味方にすることができなかつたとあつては、われわれの罪こそ、まさに死に値すると思ひます」
校長先生は眼をつぶつて考へてゐた。
アメリカ人形は、焼かれなかつた。
担架
防空訓練が始まつた。
筒井莞爾君は生来の病身で、会社勤めも早くから罷め、現在は、細君の稼ぎで生計を立てゝゐる有様である。細君は、それゆゑ、結婚後歯科医の免状を取つたほどの夫想ひであつた。
「ご近所ではあなたのことはみんな知つてらつしやるんだから、家にじつとしてらつしやい」
夫の古ズボンをどうやらモンペ風に直して、それをキリヽとバンドで締めたのが、女群長さんの健気ないでたちであつた。
「しかし、寝てるわけぢやないから、さうはいかんよ。監視係ぐらゐは勤まるだらう」
「いゝえ、また熱が出るから駄目……」
いつも同じことである。細君が、最後の患
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