美しき日本語と対話
戯曲「二十六番館」と「おふくろ」
岸田國士
友田夫妻を中心とする築地座の仕事は、最近目ざましい躍進ぶりを見せてゐる。恐らく現在の新劇団を通じて、最も着実に、最も純粋に、演劇精神を守り育みつゝあるこの一座は、次第に索寞たる研究劇の域から脱し、「劇」そのものゝ本質に徹して何人をも――少くとも真に芝居の「面白さ」を求める人々を、かなり満足せしめるに足る舞台を見せはじめた。俳優諸君も、無論、絶えざる精進によつて、演技上の進歩を示してはゐるが、それと並んで、この一座が、所謂「正しき目標」のために、最近新鋭有為なる二、三の作者をその周囲に求め得たことは、正しく、その動向の現はれであり、同時に、この仕合せな結合は、従来の新劇なるものに対する偏見を一掃する明かなデモンストレーションであらうと思ふ。今度関西公演に際して、特に選ばれた演し物は、二つながら、その意味において見逃すべからざるものである。
川口一郎君の「二十六番館」は材をニユーヨーク移民街に取り、「根こぎにされた」日本人の一種変質的な生活を、緻密な観察と周到な技巧をもつて組立てた「微笑ましい悲劇」であつて、何よりも注意
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