ひ得る真の人間的能力の表現が、相手の如何ともなし能はざる、また、競ふにも競へぬ国体の精華だけでは、こちらもなんとなく相手が気の毒になるばかりである。「さあ来い」と云へるやうな、それも、遠い過去の遺産だけでなく、現在のわれわれの力で作りあげ、築きあげた各種の文化の殿堂で、わが大都市のいくつかを飾りたいものである。
後進国とは云つても、東亜の盟邦は、いづれもその文化感覚に於てはわれわれに劣らぬものをもつてゐる人々の指導によつて、新時代の国家建設を企図してゐるのである。現代日本の知的最高水準は、欧米のそれに匹敵するものさへあるのに、たゞ、それを具体的に、国民の中枢生活の中に、即ち都市文化の上に、表示する設備に於てのみ、欧米の植民地にも劣る観があるのは、どうしたわけであらう。わが日本は、それらの国々の民衆を直接に指導することはできぬ。たゞなし得ねばならぬのは、その指導者らを指導することである。果して彼等はわれに学ばうとするであらうか?
近代美術館もなく、知識人のための劇場もなく、市民の挙つて参加する祭典もないのは、これは、今すぐにどうしやうもない。民間の科学者や芸術家が、国家からも都市から
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