田巻安里のコーヒー
岸田國士
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)安里《あんり》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)田|巻《まき》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)し[#「し」に傍点]好に
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)どこ/\の
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−
一
田|巻《まき》安里《あんり》は、甚だコーヒーをたしなんでゐた。彼は、朝昼晩、家にあつても外にあつても、機会を選ばずコーヒーを飲んだ。友人と喫茶店にはいり、「君はなに?」と問はれゝば、「無論コーヒーさ」と空うそぶき、コーヒーさへ飲んでゐれば、飯なんか食はなくてもいいと放言した。
だれも、彼がコーヒーをたしなむことに偽りがあるとは思はなかつた。たゞ、敏感な友人は、彼がコーヒーをたしなむことは、寧ろ「コーヒーをたしなむこと」をたしなむに近いと思つてゐた。
そこで問題になるのは、コーヒーそのものがある人のし[#「し」に傍点]好に適ふ理由は明瞭であるが、「コーヒーをたしなむこと」
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