れてゐるとは云へませんが、これを引戻して本来の面目に帰することこそ、現代の日本人の急務であり、新しい国民文化建設の基礎工作であります。
 家督、家名、家風、家憲などといふ言葉に現れた、日本の「家」の性格は、一国一家、君民一体の大精神をその血液のなかに宿してゐて、はじめて光輝ある伝統となるのであります。
「家」の祭りは国の祭りに通じ、家の名誉は国の名誉につながり、家の風格は国風《くにぶり》の流れに添ひ、家の掟は、臣民の道にもとづくものでなければなりません。
 かうして、日本の「家族」は、家長を中心とする国土の一単位となり、子孫の育成を本務とする国民道場の一段階となるのです。
 そこでは、儀式と起居と団欒との多彩な生活環境のうちで、われわれの、真に「生きる」道と目標とが教へられ、両親の膝の下で、懇《ねんご》ろに、また厳しく、「躾《しつ》け」が施されます。
 この家庭における「躾け」については、後の章で詳しく述べるつもりですが、そもそもこれは国民錬成の基礎ともなるべきもので、一家の盛衰はもとより、一国の消長にすら関はる重大問題であります。そして、「躾け」の見事な効果は、単に個人と家の風格を高
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