富んだ、日本の生活の縮図であるかといふことがわかるのであります。

[#7字下げ]二[#「二」は中見出し]

 西洋の生活様式にも、それはそれとしての洗煉された「味ひ」はありますし、殊に、近代文明の発達がもたらした一種快適な雰囲気といふやうなものはなくはありませんけれども、それは主として、物質本位の、個人々々の享楽と安逸を目的とした人工的、技術的な部分の浮きあがつたものです。もちろん、生活の技術といふことは、特に社会的訓練を経た個人生活の規律と、集団を対象とした生産と消費との関係の調整などは、これを彼に学ぶ必要はありませう。
 しかし、少くとも家族を単位とした「家」の生活様式は、「家」の伝統がそこに生かされてゐる限り、もはやこれ以上のことは望み得られぬまでに整備完成されたものであり、今後時代の推移と共に、表面的な改革や刷新が行はれようとも根本の基準は聊かも動かしてならぬものと私は信じます。

 それほどに、日本の「家」と「生活」とは切離せぬものでありますが、その「家」はまた、日本文化の一つの母胎であり、原動力でありまして、わが家族制度の最も健全な精神と形式は、今日必ずしも一般に受けつが
前へ 次へ
全42ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング