当てはまらないことになるのですが、それよりも、日本の文化は、人工によつて自然を殺さずに、却つて自然を活かす高度の技術を生んだとも云へるのであります。
例へば、食物についてみても、純粋の日本料理と云へば、たいがいは、材料の自然な形と色と味とを保たせながら、単純な調味によつて、献立の変化をつけるといふのが、最も料理人の腕前の見せどころで、特に野生の雑草、いはゆる山菜が、高級料理としても尊ばれるといふやうなことは、外国人には見られない日本人独得の発達した味覚を証明するものであると同時に、そこにはまた、日本人の伝統的な自然観が見られるのであります。
日本人はまた、住居に於ても、なるべく自然と一体であることを望みます。白木のまゝ材木を使ふことであり、畳の触感を好むのもそこからだと云へませう。庭園の造りは云ふまでもなく自然の美を摸したもの、或は自然そのまゝの姿を採入れたものであり、しかも、その模写による「自然」の構造は、変化するものよりも変化しないものを材料とすることが、趣味、感覚の洗煉を意味することになつてゐます。草花よりも植木、それよりも更に石といふ風に。
日本人のこの自然愛は、精
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