の災害も、殆ど常に試煉として上下心を以てのみこれに備へるにすぎず、長い歴史を通じての「復興」の努力は、それが繰り返されるたびに、一段とわれわれの抜くべからざる勇気を養つて来たかのやうに思はれます。
 自然に親しむといふことも、それゆゑ、日本人にとつては、西洋人のやうに、美しい自然が自分たちのためにそこにあるといふやうな観賞のしかたでなく、自然の心を心とすることによつて、自分たちが浄化されると感じる、その同化作用にあると云へるのです。
 西洋人も、自然の美を謳歌し、これに酔ふことはありますが、それは、どちらかと云へば、自然と戯れる余裕をもつたものであります。日本人の場合は、むしろ、自然をしみじみと眺めて深い溜息をもらすといふやうな気持の発露が、おほかたは自然の讃美となるのであります。
「自然」に対する心持がさうでありますから、生活そのものも、「自然」と離れては成り立ちません。「土」の無い生活は淋しく、草木の緑は、日光と同じやうに必要です。それのみならず、生活の形態もまた、「自然」に近いといふことが理想となります。
 そこで、「文化」は「自然」に対して使はれる言葉だといふ西洋風の概念に少し
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